2020 年以降、大きく変わった生活様式は、人々の意識にどんな変化を及ぼしているのか ——。2021 年の記事では、Google のマーケット インサイトチームが 2,000 人を対象に実施している Web アンケートによる定点調査(*1)の結果から、「IT への向き合い方」を軸に生活者を以下の 7 クラスタに分類しました。
- ウェルネス型:IT は「生活が豊かになるもの」
- トレンドフォロー型:IT は「常に動向を追いかけるべきもの」
- トライ型:IT は「得意ではないが、頑張って使うもの」
- ディスタンス型:IT は「心理的な距離があるもの」
- アクセプト型:IT は「面倒だが、周りに合わせて使うもの」
- ミニマル型:IT は「必要最低限だけ使うもの」
- クリティック型:IT は「自分向けではないと感じるもの」
そしてこのクラスタ分類をもとに、2022 年 4 月の記事では、決済手段の傾向について紹介しました。今回の記事では「オンラインショッピング」をテーマに、利用状況や期待することなどクラスタごとの違いを分析します。
オンラインショッピングへの期待は、IT への向き合い方で分析する
新型コロナウイルス感染症の影響が大きかった 2020 年から 2021 年にかけて、オンラインショッピングの利用は加速しました。
経済産業省が 2021 年 7 月に発表したデータ(*2)によると、2020 年の BtoC-EC(消費者向け電子商取引)全体の市場規模は、旅行サービスの縮小の影響で、1998 年の調査開始以降初めて減少しました。しかし物販系分野に限れば、市場規模は 2019 年から 21.7% 増と大幅に伸長し、EC 化率も 8.1 % まで上昇。「商品をオンラインで購入する」という行動自体はより身近になっています。
このように、わたしたちの暮らしに浸透してきているオンラインショッピングについて、この記事ではクラスタ別の分析をもとに、利用を促進する、あるいは妨げる要因を読み解いていきます。
クラスタ別の分析に入る前に、まずは調査全体のデータを見てみましょう。利用者がオンラインショッピングにおいて重視することのトップは「実店舗よりも安く購入できる」で、金銭的メリットを重視しています。2 位は「いつでも購入できる」、3 位は「実店舗に行かなくても購入できる」と、オンラインの本来的な価値が挙げられていました。
オンラインショッピングで重視する点(トップ 5)
反対にオンラインショッピングへの不満や不安のトップは「実際に商品を確認することができない」で、調査対象者の約半数がそのように感じているようです。次いで「商品代金とは別に送料がかかる」というコスト面での不満や、「返品や交換などトラブルへの対応が面倒」「想定より品質が低い商品や偽物/フェイク品が届く不安がある」など実物を見ないで買うことへの懸念やその際の手間が上位に挙がりました。
オンラインショッピングに対する不満・不安(トップ 5)
こうした全体の傾向を踏まえて、以降では 7 つのクラスタ別に、生活者のオンラインショッピングへの向き合い方の違いをひもといていきます。
オンラインショッピングに対する不満や不安、重視する点を 7 つのクラスタで比較し、それぞれの特徴に注目。「オンラインショッピングに何を期待しているか」に基づき、7 つのクラスタを次の 4 つのグループに分類しました。
- 購入の手間を省略したい(アクセプト型、ミニマル型、トレンドフォロー型)
- レビューを見てより良い判断をしたい(トライ型)
- 還元を受けたい(ウェルネス型、クリティック型)
- 関心がない(ディスタンス型)
順に、それぞれのグループと、該当するクラスタの特徴を解説します。
購入の手間を省略したい ―― アクセプト型、ミニマル型、トレンドフォロー型
まず「購入の手間を省略したい」グループに該当するのは、アクセプト型とミニマル型とトレンドフォロー型です。店舗に行く手間や時間、商品を自分で運ぶ労力、豊富な商品から選び出す手間などを省略する手段として、オンラインショッピングを利用しています。
まずアクセプト型は、ITは「面倒だが、周りに合わせて使うもの」だと考えているクラスタです。フィジカルなものに慣れ親しんでおり、IT のような「形がないもの」を積極的に採り入れたいとは考えていないため、オンラインショッピングの利用率も平均程度です。商品別に見ると「食品・飲料」の購入におけるオンラインショッピング利用がやや多い傾向にあります。
そんなアクセプト型は、「実店舗が近くになくても買える」「重い商品が手軽に購入できる」ことを平均よりも重視しています。
アクセプト型がオンラインショッピングで重視していること(平均との差分のトップ5)
続いてミニマル型は、IT を「必要最低限だけ使う」クラスタです。オンラインショッピングで重視しているポイントを聞くと、「実店舗に行かなくても購入できる」「実店舗に行く時間を節約できる」ことが上位でしたが、実はオンラインショッピングの利用率は、商品ジャンルを問わず全体的に低い傾向にあります。
商品を入手するための時間を省略したいというニーズが見てとれますが、積極的にオンラインショッピングを利用しているというよりも、どうしても時間が足りないときなど、限定的な場面での利用が主だと推察できます。
ミニマル型がオンラインショッピングで重視していること(平均との差分のトップ5)
アクセプト型とミニマル型は、平均と比べて「個人情報の流出の懸念がある」の項目が高いのが特徴的。その上でアクセプト型の場合は、個人情報の流出に不安を感じつつも、オンラインショッピングの利便性を享受しており、反対にミニマル型は、個人情報を提供したくないために、オンラインショッピングを積極的には使わない傾向にあるといえそうです。
それに対して購入前の不安をあまり強く感じていないのが、トレンドフォロー型です。
「IT は常に動向を追いかけるべきもの」だと考え、IT の利便性を高く評価しているトレンドフォロー型は、全 7 クラスタで最もオンラインショッピング利用率が高いクラスタです。商品ジャンルを問わず、幅広い場面で利用しています。ほかのクラスタと比べて「品揃えが豊富」「商品を探す時間が省ける」ことを重視しており、幅広いラインナップから、欲しいものをより簡単に見つけたいニーズがあることがわかります。
積極的にオンラインショッピングを利用しており、オンラインショッピングに対する不安や不満も他のクラスタと特徴が異なります。オンラインショッピングの経験が多いためか、たとえば「品質が低い商品や偽物が届くこと」「配送中の破損や紛失」など購入後の対応により不安を感じる傾向にあるようです。
トレンドフォロー型がオンラインショッピングで重視していること(平均との差分のトップ5)
レビューを見てより良い判断をしたい ―― トライ型
2 つ目は「購入前に得られる商品やサービスの情報」を重視しているグループです。商品のレビューなど、購入にあたってより良い判断をするための手段としてオンラインショッピングを位置付けています。
このグループに該当するのは「IT は得意ではないが、頑張って使うもの」と捉えているトライ型です。
「実店舗が近くになくても買える」「商品のレビューを参照しながら購入できる」という点を平均よりも重視しており、より簡単に商品そのものの評価を見てから買いたいと考える傾向にあります。IT スキルやリテラシーに自信がないクラスタなので、失敗を避けるためにレビューを活用しているのかもしれません。
ミニマル型と同様に、「商品代金とは別に送料がかかる」ことへの不満が平均よりも高く、追加でかかるコストに敏感でした。その分、レビューを見てより慎重に購入を判断したいと考えているのだと推測できます。
また記事前半で紹介したとおり、全クラスタのおよそ半数が「実際に商品を確認できない」ことへの不安を感じていましたが、この割合が最も大きいのが、このトライ型でした。このことからも、まだまだ実店舗での買い物のほうがその商品の価値を確実に見極められると考えていることが見てとれます。オンラインショッピングの利用も平均程度にとどまっています。
トライ型がオンラインショッピングで重視していること(平均との差分のトップ5)
還元を受けたい ―― ウェルネス型、クリティック型
3 つ目は、「オンラインショッピングで得られる具体的な還元」を特に重視するグループです。同じものを購入しても、ポイント還元などでよりお得に購入できる点に魅力を感じています。このグループに当てはまるのが、ウェルネス型とクリティック型です。
「IT は生活が豊かになるもの」と考えているウェルネス型はトレンドフォロー型に次いでオンラインショッピングの利用率が高いクラスタで、「ポイントが貯まる」ことを特に重視しています。
またオンライン上で接する情報全般を好意的に受け止めるクラスタであるため、トレンドフォロー型が懸念していた、商品の品質やフェイク品への不安も低く、むしろオンラインショッピングを積極的に利用しています。その分、「買いすぎてしまう不安がある」との回答が多いのも特徴です。使いすぎを抑えたいと思っている反面、「商品を確認できない」ことへの不安は平均より低く、実物を見ないで購入することへの抵抗もありません。
ウェルネス型がオンラインショッピングで重視していること(平均との差分のトップ5)
続いて、「IT は自分向けではないと感じるもの」だと捉えているクリティック型です。「IT は利用者(自分)よりも、提供側のためのもの」だと批判的に考えているクラスタなので、オンラインショッピングにおいても、ポイント還元のような利用者側へのメリットを重視する傾向にあると考えられます。
クリティック型がオンラインショッピングで重視する点としては、多くの項目が平均的かやや低い中で、「ポイントが貯まる」だけが高くなっています。このことから、還元という具体的なインセンティブがオンラインショッピング利用のハードルを下げる要素になり得ることが見てとれます。
不安や不満に関しては、全体と比較して「不満/不安だと感じるポイントはない」が最も高いという結果でした。前述の通り、IT 全般に対して批判的な態度のクラスタであるため、そもそも自分にとって IT が便利なものであるという期待をあまり持っていないことがこの結果に表れていると考えられます。
クリティック型がオンラインショッピングで重視していること(平均との差分のトップ5)
オンラインショッピングに関心がない ―― ディスタンス型
ディスタンス型は上記 3 つのグループとは異なり、オンラインショッピングの良いところや悪いところいずれにもあまり関心を持っていません。利用率も低く、最も利用が浸透していない層といえます。
以上、7 クラスタを 4 つのグループに分類し、それぞれオンラインショッピングの利用傾向や向き合い方を見てきました。
EC を提供する事業者としては「購入の手間を省略したい」「レビュー情報を見てより良い判断をしたい」「還元を受けたい」などのグループ別に、オンラインショッピングに何を期待しているのかや、利用のハードルとなっている懸念について確認することで、どのような体験を提供すべきか、どのようなサポートが必要なのかを理解できます。
事業者によっては、すでに今回紹介したいずれかを重視して EC を設計している場合もあるかもしれません。その場合には、他のグループの期待や懸念を確認し、そのニーズを満たすことで、これまでアプローチできていなかったより広い人々に自社サービスを届けられる可能性があります。
クラスタ分析という新しい視点から光をあてることで、世代やリテラシーだけにとらわれないマーケティングの参考になればうれしく思います。