人々の IT への向き合い方をマーケティング目線で考える時、従来はリテラシーの高低や新技術やサービスの受容度、世代などで切り分けるのが主流でした。しかし IT がより深く生活に浸透するにつれ、 IT への向き合い方もさらに複雑になっているのではないでしょうか。
Google では 2021 年から、2,000 人を対象にした Web アンケート調査(*1)とその分析を続けています。2021 年 10 月に公開した記事では、その初回調査の結果を踏まえて、人々の IT への向き合い方を次の 7 クラスタに分類しました。
- ウェルネス型:IT は「生活が豊かになるもの」
- トレンドフォロー型:IT は「常に動向を追いかけるべきもの」
- トライ型:IT は「得意ではないが、頑張って使うもの」
- ディスタンス型:IT は「心理的な距離があるもの」
- アクセプト型:IT は「面倒だが、周りに合わせて使うもの」
- ミニマル型:IT は「必要最低限だけ使うもの」
- クリティック型:IT は「自分向けではないと感じるもの」
この分類をもとに、今回はさらに各クラスタが日々の買い物における決済手段をどのように利用しているかを分析していきます。キャッシュレス決済の普及が進む中で、スマートフォン決済やカード決済、現金決済をどう使い分けているのでしょうか。
「キャッシュレス vs 現金」だけではない分析を
日本は諸外国と比較して現金信仰が強いと言われてきましたが、それでもキャッシュレス決済の比率は右肩上がりに推移しています。経済産業省 商務・サービスグループ キャッシュレス推進室の発表によると、2020 年の日本のキャッシュレス決済比率は 29.7% で前年比およそ 3 ポイント増でした。コロナ禍で消費支出が落ち込む中でも、クレジットカード、デビットカード、電子マネー、QR コード決済のいずれの決済手段も前年より決済金額を伸ばしています。
今回 Google が実施した調査でも、同様の傾向が明らかになっています。2021 年 6 月の初回調査と 2022 年 1 月の調査で「過去 2 週間以内に行ったこと」の回答を比較すると、「QRコード決済で買い物する(+2.8 ポイント)」「交通系電子マネーで買い物する(+2.2 ポイント)」など、微増傾向にありました。
さて、ここまで見てきたとおり、従来は決済に関する話題において「キャッシュレス派と現金派」という二項対立で比較することが一般的でした。しかし一口にキャッシュレスといっても、その手段は多岐に渡りますし、キャッシュレスと現金を場面に応じて使い分ける人もいます。
では実際の生活者たちは、決済手段をどのように選択しているのか、7 つのクラスタの意識や行動を分析することで見えてきた視点を紹介します。
キャッシュレスを選ぶ理由、現金を選ぶ理由
今回の調査では、生活者に決済手段を聴取した上で、それらを以下の 3 つの区分に分類しました。
- 現金
- 物理カード(クレジットカード、デビットカード、カード型の電子マネー)
- スマートフォン(非接触、QR/バーコード、モバイル電子マネー *ウェアラブルデバイスも含む)
2 と 3 がいわゆる「キャッシュレス決済」に当たります。その上で今回は、調査テーマである「IT との向き合い方」をより詳細に見るために、インターネットに接続していない 2 と、接続している 3 に分類して整理しました。
調査では、まず対象者全員に次の 10 カ所、「コンビニ」「スーパー」「ドラッグストア」「外食レストランチェーン」「ファーストフードチェーン」「家電量販店」「アパレル店」「飲料の自動販売機」「タクシー」で最も頻繁に使用している決済手段を聞きました。
結果を見ると、どの場面でも現金の利用が一定数あることがわかります。特に「飲料の自販機」「タクシー」「美容院」では 6 割〜 7 割を占めています。
一方で「家電量販店」と「スーパー」では物理カードが主流でした。また、「コンビニ」と「ドラッグストア」ではスマートフォン決済が浸透しており、特に「コンビニ」ではスマートフォン決済が最も頻繁に利用されています。
それぞれの決済手段を利用する理由を見ると、現金は「どこでも使えること」「慣れていること」が挙げられています。スマートフォン決済と物理カード決済は、共通して「ポイント還元がある」「会計時間を短縮できること」が上位に。スマートフォン決済単体では、「スマートフォンだけで完結できる」、つまり財布の機能を集約できることが重視され、物理カードは「慣れている」ことが重視されています。
決済手段の選び方を 7 クラスタで分析する
ではここからは、「現金」「物理カード」「スマートフォン」それぞれの決済手段の利用傾向を、7 つのクラスタごとに見ていきます。
前述の 10 個の決済シーンにおいて、それぞれ最も使われている決済方法は以下のとおりでした。この数値を基準として、各クラスタを「平均よりスマートフォン決済を利用する」「平均と同程度に物理カード利用する」「平均より現金を利用する」の 3 グループに分けました。
現金を最もよく利用する
- ドラッグストア
- 外食レストランチェーン
- ファストフードチェーン
- 美容院
- 飲料の自販機
- タクシー
物理カード決済を最もよく利用する
- スーパー
- 家電量販店
- アパレル店
スマートフォン決済を最もよく利用する
- コンビニ
以降は、グループ別にそれぞれのクラスタが利用する主な決済手段や傾向を見ていきます。
1:平均よりスマートフォン決済を利用する
まずは、全体平均よりもスマートフォン決済の利用が多いクラスタを見ていきます。これに該当するのが「トレンドフォロー型」と「ウェルネス型」です。
トレンドフォロー型:スマホを財布代わりに使いたい
トレンドフォロー型は、「IT が自分の生活にもたらす利便性」を高く評価しており、IT は「常に動向を追いかけるべきもの」と考えている人たちです。
コンビニとファストフードチェーンでは、スマートフォン決済の割合が最も高く、さらに全体で見ると現金比率が高い美容院でも、比較的スマートフォン決済の利用率が高くなっています。
スマートフォン決済を選ぶ理由
スマートフォン決済を選ぶ理由としては「ポイント還元がある」が最多で、次いで「スマホで完結できる」「会計にかかる時間を短くできる」と続きます。スマホを財布の代わりに使いたいと考えているようです。
ウェルネス型:スマホで会計を効率化したい
ウェルネス型は、IT の発展を「生活が豊かになるもの」と好意的に捉えています。新しいツールやサービスもどんどん生活に取り入れる一方で、オンラインとオフラインをフラットに見て、便利なほうや自分に合うほうを選ぶ傾向にあるクラスタです。
コンビニでは、一番使う決済手段にスマートフォン決済を選んでいます。
スマートフォン決済を選ぶ理由
スマートフォン決済を選ぶ理由は、トレンドフォロー型同様に「ポイント還元がある」が最多でした。しかしその割合は全体平均よりも低く、「スマホで完結できる」や「会計にかかる時間を短くできる」の割合もトレンドフォロー型を大きく下回っています。トレンドフォロー型と比べて現金、カードの利用率が高いのも特徴で、ウェルネス型は IT との向き合い方と同様に、状況に応じて現金やカードとスマートフォン決済を使い分けていると言えそうです。
そのほかのクラスタでのスマートフォン決済:ミニマル型とアクセプト型
スマートフォン決済について、ほかのクラスタの利用状況も見てみましょう。相対的にスマートフォン決済の利用は多くなかった「ミニマル型」「アクセプト型」ですが、コンビニなどでは、スマートフォン決済を一定数利用していることがわかりました。
「IT は必要最低限だけ使うもの」と考えているミニマル型は、全体的に現金の利用に偏っています。しかしその中でも、コンビニでは「QR/バーコード決済」を 2 割前後が利用しています。選択理由としては「ポイント還元がある」が最も高く、身近な小売店での還元が最初のお試し利用を促している可能性があります。
「IT は面倒だが、周りに合わせて使うもの」と考えているアクセプト型も、全体では物理カードの利用が最も多いものの、コンビニでは 2 〜 3 割の人が「QR/バーコード決済」を利用しています。
スマートフォン決済を選んだ理由として「支払履歴や利用状況が確認しやすいから」が全体と比べて高いのが特徴です。現金の利用においても「浪費するのを避けられるから」という選択肢が比較的高いことから、どの決済手段においてもお金の管理を気にしているクラスタであることがわかります。決済履歴を確認しやすく、支出を管理できることがメリットだと考えているようです。
2: 社会一般の平均程度に物理カード利用する
社会一般の平均程度に物理カードを使うのは、「トライ型」と「アクセプト型」です。
トライ型:還元を受けられるカード払いで会計を効率化したい
トライ型は「IT にあまり詳しくないが、便利だったら使う」といった姿勢で、生活に IT を取り入れている層です。
スーパー、アパレル店では物理カードの利用がおよそ 5 割〜 6 割強を占めています。
物理カードを選ぶ理由
物理カードを選ぶ理由で最も多いのは「利用によるポイント還元がある」です。また「会計にかかる時間を短くできる」「ATM で現金を下ろす手間がかからない」の割合が他のどのクラスタよりも高い一方で、スマートフォン決済を選ぶ理由としてはこれらの回答が全体平均より少ないのが特徴的です。
「便利だったら使う」というトライ型の人々は、慣れ親しんでいるカード払いに不満を感じておらず、スマートフォン決済の方が便利だとは思っていないために、スマートフォン決済へは移行していないと推察できます。コンビニなど特に利用頻度が多い場所を除けば、小売店での会計は、物理カードでの支払いだけで十分に効率化できていると感じているのかもしれません。
アクセプト型:使い慣れた物理カードで還元を受けたい
IT を「面倒だが、周りに合わせて使うもの」と捉えているアクセプト型も、多くの場所で物理カード決済を利用しています。
スーパーやアパレル店などではクレジットカードの利用が最も多く、コンビニやスーパーなどでは、カード型の電子マネーをよく利用しています。
物理カードを選ぶ理由
物理カードを選ぶ理由は、トライ型と同じく「利用によるポイント還元がある」が最多。次いで「カードで支払うことに慣れている」「会計にかかる時間を短くできる」が多く、クレジットカードやカード型の電子マネーが効率的な決済手段として定着しているようです。慣れ親しんでいるものやフィジカルなものを好むクラスタ特性なので、電子マネーのようにモバイル版があっても、物理カードのタイプを好んで利用しています。
また全体と比べると、「支払履歴や利用状況が確認しやすいから」が高い傾向にあります。「無駄なものを減らしてシンプルに生きたい」という意識が強いクラスタでもあるので、使用状況を確認して支出を管理できることを特にメリットと捉えているのかもしれません。
そのほかのクラスタでの物理カード決済:トレンドフォロー型とウェルネス型
前述のように、スマートフォン決済の利用が多いトレンドフォロー型とウェルネス型ですが、スーパーなどではクレジットカードをよく利用しています。それは、「ポイント還元がある」「慣れている」ことが理由です。
全体の傾向と比べて、トレンドフォロー型は「スマートフォンを携帯していない時にも使えるから」が高く、ちょっとした買い物時にカードだけを持ち歩くような使い方をしていると推測できます。
またウェルネス型では、「そのカードを使っていることがステータスになる」が高い傾向があり、スマートフォン決済をメインとする中で、それとは別に「モノとしてのカード」を持つことに価値を見出しているようです。上で見た通りウェルネス型は IT を好意的に捉えており、スマートフォン決済も積極的に取り入れています。それと同時に、ウェルネス型はオンラインかオフラインかをフラットに見て、便利なほうや自分に合うほうを選ぶ傾向にあることもわかっています。物理カードに価値を見出しているのも、こうしたウェルネス型の特性を反映した結果と言えるかもしれません。
3:平均より現金を利用する
ミニマル型:慣れていて収支管理しやすい現金を使いたい
ミニマル型は「必要最低限だけ IT を使う」クラスタです。メッセンジャーアプリやメールで家族や友人と連絡を取るなど、ライフラインとして最低限の範囲で IT を利用しています。個人情報が漏れたり個人を特定されたりといった IT 利用によるリスクを危険視しており、周りの後押しがあっても、リスクを感じたら受け入れません。
現金を選ぶ理由
このクラスタは、アパレル店と家電量販店では物理カードの利用が最も多いものの、それ以外の場所では「現金決済」が最多です。理由としては「現金で支払うことに慣れている」「どこでも使える」が並んで最多。次いで「浪費するのを避けられる」「管理がしやすい」が続きます。物理的に収支を確認しやすいことを重視しているようです。
また「不正に利用される心配がないから」も 20% 以上と高いです。IT に対して警戒心が強いのと同様に、キャッシュレス=不正利用というネガティブな印象を少なからず持っていることがわかります。
クリティック型:キャッシュレスを信じ切れないから現金を使いたい
クリティック型は IT に理解はあるものの、利用者より提供側のためのもので、自分の生活を豊かにしてくれるものとは感じていません。IT は「自分向けではない」と批判的に捉えているクラスタです。
ミニマル型と同じく、物理カードの利用が多いアパレル店などを除けば、現金が主流です。
現金を選ぶ理由
現金を選ぶ理由は、「どこでも使える」が最多ですが、ミニマル型と比べるとその率は低く、全体との差を見ると「スマートフォンに決済の機能を集約するのが不安」「キャッシュレス決済を提供する企業を信用できないから」という理由が高い傾向にあります。デバイスやキャッシュレスサービスに疑念を抱いていることがわかります。
ディスタンス型:こだわりがなく慣れている現金で十分
ディスタンス型は、「IT を人並みに使ってはいるが、IT に対して当事者意識が低く、心理的な距離がある層」です。
このクラスタもミニマル型とクリティック型同様に、アパレル店などを除けば現金決済を最も多く利用しています。
現金を選ぶ理由
現金を選ぶ理由は、「現金で支払うことに慣れている」が最多。また「特にない」という理由も多く、決済手段にあまりこだわりがないため、最も慣れている現金を利用していると考えられます。
生活者の決済への向き合い方を理解して、ビジネスの成長につなげる
以上、クラスタごとに決済手段の利用傾向や向き合い方を確認しました。
こうした違いを理解することは、自社ビジネスの成長を考える上での 1 つの視点になり得ます。
既存の顧客をより満足させるには、どの決済手段を優先的に導入すべきなのか。新規顧客にアプローチしたい場合、どの決済手段に対応すればよいのか。生活者それぞれに合ったマーケティングが重要です。
次回は「オンラインショッピング」をテーマに、7 つのクラスタそれぞれの IT との向き合い方に迫ります。