新型コロナウイルスの世界的流行により、2020 年以降、人々の行動は大きく変わりました。外出が制限され、ステイホームを強いられた人々は、オンラインサービスを以前より活発に利用するようになっています。
感染拡大の影響が長期化し、日常になりつつある今、人々はどのような価値観をもち、IT にどのような意識をもっているのでしょうか? そんな意識を明らかにするために Google は、2021 年 6 月から 8 月まで隔週で、その後 9 月以降は月次で Web アンケート調査(*1)を実施。今回だけでなく今後も、日本の生活者 2,000 人を対象にその変化を追っています。
調査の過程で見えてきたのは、IT は生活にとって不可欠な存在であること、そして不可欠だからこそ、それぞれのやり方で IT と向き合っているということでした。
IT への向き合い方は、世代やリテラシーだけではわからない?
従来のマーケティングにおいて、人々の IT に対する意識と行動は、リテラシーの高低、新技術やサービスの受容度、世代などで切り分けるような考え方を参照することが多く見られました。例えば、「デジタルディバイド(インターネットなどの情報通信技術を利用できる人とそうでない人の間に生まれる格差)」や「イノベーター理論(イノベーションの普及過程における人々の受容度を 5 つのグループに分けて説明したもの)」といった概念は、その一例です。
もちろんこれらは今でも社会の大まかな全体像を捉える考え方として有効ではありますが、それだけでは生活者の動向を見誤るリスクもあります。好むと好まざるとにかかわらず、今の世の中には、人々の暮らしをより良くしようとさまざまな IT ツールがあふれています。それを生活者がどう捉えているのかを、「進んでいる人/遅れている人」という見方だけで済ませてしまってよいのでしょうか。たとえば「プライバシーに関する不安があるからツールを使うことに慎重になる」という人を、遅れていると言ってしまってよいのでしょうか。
IT との向き合い方は、本来は生活者の数だけ存在するはずです。進んでいるか遅れているかという線形ではなく、もっと多くの要因があると Google は考えています。それをきちんと理解し、それぞれの人にとってより良い IT のあり方を考えていくことが大切だと信じます。
そこで今回 Google では、2021 年 6 月に実施した初回の調査結果から、生活者を 7 つのクラスタに分類しました。
6 つの因子と 7 つのクラスタ
生活者を「IT との向き合い方」で分類するにあたって、まずは設問群への回答データを元に因子分析(*2)を実施。そこから回答者の「潜在意識」や「明文化できない思い」を見出しました。
今回、クラスタ分析(*3)をする上で、その特性を読み解くために定めた 6 つの因子は以下の通りです。
因子 1:IT に自信がある
IT への関心が高く、積極的に使っており、新技術にも明るい。IT の活用に自分なりに自信をもっている。
因子 2:匿名でいたい
実生活から SNS などのインターネット上まで、プライベートな生活を周りの人や事業者に知られたくないと思っている。各種サービスも極力匿名で利用する。
因子 3:IT によって生活が便利になっている
検索、EC、SNS、デジタルデバイスなどの IT を取り入れることで、自らの生活が便利になっている実感を持っている。
因子 4:IT によって社会が発展している
IT に関して、さまざまな視点から議論があることは認識しているが、IT が社会に良い影響を与えるという期待をもっており、そうした好影響を重視している。
因子 5:便利と引き換えに個人情報を提供してもいい
IT の利便性を享受するためには、サービス提供者に個人情報を渡す必要があるなど、トレードオフを理解しており、そのことに納得している。
因子 6:情報をコントロールできないと不安
自身の情報をコントロールできるサービスなら抵抗が薄いが、特に公共空間での監視カメラなど、無関係な第三者に把握され、コントロールできなくなることを懸念している。
――これら 6 つの因子ごとの得点、つまり因子への反応の強弱によって分類したのが、以下の 7 つのクラスタです。図で示しているクラスタごとの割合は 6 月 7 日に実施した第 1 回調査時点での数字です。しかし最新の第 7 回(9 月 13 日)時点までこの割合に大きな変化はありません。
1:ウェルネス型:IT は「生活が豊かになるもの」
因子 4(IT によって社会が発展している)や 5(便利と引き換えに個人情報を提供してもいい)がもっとも強いこの層の人々にとって、IT は豊かな生活に欠かせないものです。
特に、因子 4 に含まれる設問を見ると「SNSは、人々のつながりを強めて結びつけている」や「デジタル機器を活用することで、人々の心身は健康になっている」などの回答がどのクラスタよりも強く、IT の発展を好意的に捉えています。その恩恵を受けるために、シェアリングサービスやネットスーパーなどの新しいツールやサービスもどんどん生活に取り入れます。
以下の表を見ると、他のクラスタと比較してオンライン上の情報に対する信頼度が高いこともわかります。因子 3 内の「オンライン広告によって商品・サービスに関する有益な情報を得られるようになった」の回答もクラスタ間で最も強いことから、オンライン上で接する情報全般に対して好意的に受け止めているのが特徴です。
オンライン上の情報に対する信頼度(トップ 2 :「すべて信頼できる」「大部分信頼できる」の合計)の平均比
ただしオンラインかオフラインかを選択する上では、必ずしもオンラインが優位にあるわけではなく、フラットに見て便利な方や、自分に合う方を選ぶ傾向にあります。
IT の利用には前向きであると同時に、因子 6(情報をコントロールできないと不安)を見ると、自身がコントロールできない範囲で第三者に情報を把握されたくないという意識も強いことがわかります。このことから、自分で情報をコントロールできなくなるのは避けたいが、必要な個人情報を提供してサービスを使うという利便性とのトレードオフを許容する感覚を持っていると言えそうです。
2:トレンドフォロー型:IT は「常に動向を追いかけるべきもの」
因子 1(IT に自信がある)と因子 3(IT によって生活が便利になっている)がクラスタ間で最も強い層です。特に、因子 1 に含まれる設問の「インターネットの進展やデジタル化の流れについていけていると思う」や因子 3 に含まれる「インターネットによって、自分の生活が豊かになったと思う」がどのクラスタよりも強いのが特徴です。IT が自分の生活にもたらす利便性を高く評価しているだけでなく、その変化のスピードに追いついている自信があります。流行りのテクノロジーやデジタルデバイスに触れること自体にも楽しみを見出しています。
また IT に限らず、「流行っている」コンテンツや「最先端の」カルチャーの消費が旺盛で、たとえば動画配信サービスと地上波テレビなど、両方を比べながら、いいとこ取りをしたいと考えています。
過去 2 週間に自分が楽しむためにしたこと 上位 5 件
一方で、因子 4 (IT によって社会が発展している)や 5 (便利と引き換えに個人情報を提供してもいい)が特別強くはないことから、自身に関する情報の開示などは意識的に管理しようとしている態度が見てとれます。
3:トライ型:IT は「得意ではないが、頑張って使うもの」
因子 1(ITに自信がある) が弱いにも関わらず、因子 3 (ITによって生活が便利になっている)が強いことから、IT スキルやリテラシーに自信はないものの、スマホや検索サービスなどは生活に欠かせないものだと考えている層であると言えます。SNS の利用状況を見ると、投稿は平均的ですが閲覧用として活発に利用。また動画配信サービスも、無料のものを積極的に利用します。
あまり IT に詳しくありませんが、便利だったら使うといった姿勢で取り入れている層です。
左:過去 2 週間にコミュニケーション手段として利用したもの 上位 5 件
右:過去 2 週間に自分が楽しむためにしたこと 上位 5 件
因子 4 (IT によって社会が発展している)や 5 (便利と引き換えに個人情報を提供してもいい)も比較的強いことから、企業による個人情報の取り扱いが適切であれば、自分にとってメリットの方が大きいと考えています。
4:ディスタンス型:IT は「心理的な距離があるもの」
IT を人並みに使っていますが、生活に当たり前にあるから使っているだけで、具体的に IT が便利であるという実感は強くありません。
因子 4 の中身を見ると、インターネットやデジタル化に関する話題について「関心がない」との回答が最も多く、IT に対して当事者意識が薄く、心理的な距離がある層とも言えます。
インターネットやデジタル化の話題に対して、どちらに考えが近いかを問う設問での「関心がない」という回答の割合
特に個人情報について因子 2(匿名でいたい) が弱いことから、プライバシーについては比較的おおらか、またはこれまでの生活通りであれば問題ないと考えていることがわかります。ただしそれと同時に因子 5(便利と引き換えに個人情報を提供してもいい)も弱いことから、自分が便利になるとしても企業に対して個人情報を提供することには抵抗があることも見えてきます。
5:アクセプト型:IT は「面倒だが、周りに合わせて使うもの」
IT スキルやリテラシーは平均的だと感じており、IT によって生活が向上した実感もそれほどありません。たとえば、因子 3 に含まれる設問で「オンライン広告により商品・サービスに関する不要な情報が増えた」や、因子 4 に含まれる設問で「デジタル機器に依存することで、人々の心身は不健康になっている」といった回答が比較的強いことが特徴です。
今後心がけたいこととして「無駄なものを減らしてシンプルに生きたい」の回答が最も多く、また因子 1 に含まれる設問の「リアルな空間より、インターネット空間の方が自分らしくいられると思う」という回答がどのクラスタよりも低いなど、フィジカルなものに慣れ親しんでいます。そのため「IT = 形がないもの」を積極的に採り入れたいとは考えていませんが、周囲の人に不便や迷惑をかけたくないため、TPO に応じて IT を選択しています。一例として、因子 3 に含まれる「メッセージアプリを使うことでつながりを維持しなければならないため疲れるようになった」が強いにも関わらず、コミュニケーション手段としてはメッセンジャーアプリを平均より多く利用しています。
過去 2 週間にコミュニケーション手段として利用したもの
メッセージアプリを使うことで、ここ 1 〜 2 年で生活に起きた変化
このクラスタは因子 5(便利と引き換えに個人情報を提供してもいい)が比較的強く、無料でサービスを使えるなら、個人情報を提供することも受け入れています。同時に因子 4(IT によって社会が発展している)がクラスタ間で最も弱いことから、企業によるデータの使い方にさらなる工夫の余地があると感じているのかもしれません。
6:ミニマル型:IT は「必要最低限だけ使うもの」
メッセンジャーアプリやメールを利用して家族や友人と連絡を取るなど、ライフラインとして IT は欠かせませんが、それ以上を必要とはしていません。SNS や電子決済、テクノロジーデバイスの利用率は平均より低く、必要最低限だけ IT を利用していることがわかります。
左:過去 2 週間にコミュニケーション手段として利用したもの 上位 5 件
右:過去 2 週間に使った金融・決済手段 上位 5 件
また因子 2(匿名でいたい)がどのクラスタよりも強く、特に「インターネット上で自分の個人情報が外部に漏れている不安がある」や「SNSに実名で投稿することに抵抗がある」が強いことが特徴です。さらには因子 6(情報をコントロールできないと不安)も強いことから、自分の情報が流出したり、特定されたりする不安を比較的強く感じています。因子 3(IT によって生活が便利になっている)が弱いことからも、利用することによる実利よりも、利用しないことによるリスクの回避を求めていて、周りの後押しがあっても、リスクを感じたら受け入れません。
7:クリティック型:IT は「自分向けではないと感じるもの」
因子 1(IT に自信がある)や 5(便利と引き換えに個人情報を提供してもいい)が強く、IT への関心があり、それを利用するために個人情報を提供することについてもある程度の理解を示しています。その一方で因子 3(IT によって生活が便利になっている)が最も弱いのが特徴で、現状の IT は利用者である自分よりも、提供側の企業や人々のためのもので、自分の生活を豊かにしてくれるものであるとは感じていません。つまり IT によって他の一部の人がより優先されている感覚があるようです。
特に因子 4 に含まれる設問の「SNSは、人々のつながりを弱めて分断している」や「インターネットは、誤った情報の拡散を助長している」「インターネット企業は個人情報を過度に収集している」が比較的強いことから、IT が社会に与える影響を懸念していることもわかります。
また興味深いことに、このクラスタはマスメディアに対する信頼が最も弱い層でもあります。そして、メッセンジャーアプリや SNS 利用が低いのも特徴的です。自分が最も信頼しているツールのみを選択して利用していることの表れかもしれません。
過去 2 週間にコミュニケーション手段として利用したもの 上位 5 件
以上が、分析から導き出した 7 つのクラスタです。生活者をクラスタ別に見ることで、世代やリテラシーだけではうまく説明できない、IT に対する人々の態度や行動が明らかとなり、今後マーケティングにおいて意識すべき新たな視点となるでしょう。
Google では、今後も定点調査を基に、2021 年を通して各クラスタの動向を追っていきます。