前回は、「パルス型消費」という、何気なくスマホを操作する行動の中で、瞬間的に買いたい気持ちを覚え、買いたいと思う商品を発見し、その同じ瞬間に買い物行動を完了する消費行動をご紹介しました。これは、ある程度時間をかけて買いたい気持ちを醸成させる「ジャーニー型消費行動」とは異なるものです。さらに、「パルス型消費」のトリガーとして、6 つの「直感センサー」に分類できることにも触れました。今回の記事では、この「直感センサー」について詳しくご紹介します。
「パルス型消費」を促す 6つの直観センサー
1. セーフティ:「より安心安全なもの」に反応する直感センサー
例) 何となく安全性への不安があるため。口に入れるものだし、ネットには色々な業者がいるから。「サトウのごはん」そのものは有名だけど、それを取り扱っている業者さんに何となく不安。サトウから送られてくるわけではないので。(男性、35 歳、独身)
2. フォーミー:「より自分にぴったりだと思うもの」に反応する直感センサー
例) なぜなら無農薬の玄米が欲しいから。あまり近くでは売っていないので。サイト上でいろいろ探してこれに辿り着いた。黒砂糖も沖縄産が欲しかったのだが、これもサイトで買った。(男性、42 歳、独身)
3. コストセーブ:「お得なもの」に反応する直感センサー
例) 特定の業者に対するこだわりはほとんどない。欲しいと思った時に検索をして、送料などを考慮してここが一番安いと思ったところに頼むことが多い。(男性、60 歳、既婚)
4. フォロー:「売れているもの」や、「第三者が推奨するもの」に反応する直感センサー
例) 化粧品を買う時は、ネットの口コミを見てから買う。ある程度、高額なもの、5,000 円を超えてくるものだったら、口コミがないと買えない。(女性、30 歳、既婚)
5. アドベンチャー:「知らなかったもの」や「興味をそそるもの」に反応する直感センサー
例) 新しく化粧品を買う時は一度悩む。「次はどうしよう?」と思うのがまた楽しい。どれを使おうかな?と思ったときに色々試して…という感じ。(女性、33 歳、既婚)
6.パワーセーブ: 「買い物の労力を減らせること」に反応する直感センサー
例) 蛍光灯も買っている。お店で蛍光灯を買う場合、30W や 32W の違いがあったり、大きさや色の種類をメモして持っていったりするけれど、写真を撮っても間違えることがある。画面を見ながらだと、サイズの間違いがないかとか、蛍光灯の色の感じもこれだよねとか、間違いなく買えるので便利。(女性、40 代、既婚)
これらの 6 つの直感センサーは、買い物という行動に反応する根源的なセンサーであり、すべて誰でも持っているものです。このセンサーは一般的な意味での価値観とは異なります。価値観には一貫性がありますが、直感センサーはいわばヒューリスティックスな感覚であるため、一貫性がありません。
直感センサーは変化する
端的に言えば、状況により反応しやすいセンサーは変化します。たとえば、消費財の購入に関してはコストパフォーマンスがなにより重要だという価値観の人を想定してみましょう。しかしそのような人も、炎天下に外出してのどが渇いた場合、目の前にある自動販売機を通り過ぎて、1 キロ先の量販店まで飲み物を買いに行くことはないでしょう。またこのような状況では、たとえトレンドに敏感な人でも、少し距離のあるカフェまで出かけて流行りのコールドブリューのアイスコーヒーを買うこともありません。彼らが目の前の自動販売機でドリンクを買う瞬間、「パワーセーブ」の直感センサーが働いているのです。
一見すると「ただ、いつも通りの商品を買っているだけ」に思えるような行動も、深く観察すればその奥でこれらのセンサーが常に働いていることが見えてきます。いつもの商品を無意識に手に取る瞬間、ある人は「この商品なら安心だから」、また別のある人は「この商品は自分にあっているから」、さらには「この店ではこの商品が底値だから」「これなら考えなくても間違いないから」等、それぞれ異なるセンサーによって行動を促され、結果として親しんだ商品を購入しているのです。
ではこれらのセンサーは、実際の買い物行動に対してどの程度影響を与えているのでしょうか。アンケート調査の結果から、それぞれの直感センサーの反応のしやすさを集計しました。
6 つの直感センサーの特徴を詳しく分析
6 つの直感センサー 反応のしやすさ (消費財 + 耐久財)
すると、もっとも反応しやすい直感センサーは、「セーフティ」と「フォーミー」であることがわかりました。そしてその後に「コストセーブ」です。
調査の実施前は、どのカテゴリーにおいても現在の日本では「コストセーブ」がもっとも高い反応になるのではないかと推定していました。けれども実際は、お得感よりも安全性や自分の生活スタイルに合っているかどうかという点がより重要視されていました。この結果を改めて見つめてみると、安全性や自分らしさが担保された上で、価格が求められるということがわかります。
「フォーミー」直感センサーの強さにも着目すべきです。「セーフティ」と同じくらいベーシックな欲求でありながら、誰にでも受け入れられるマスプロダクトには飽きたらないという「フォーミー」直感センサーに、今後いかに応えていけばよいのか。そのためにも、この視点はとても重要です。
一方、下位 3 つのセンサーは「フォロー」「アドベンチャー」「パワーセーブ」で、この3つの反応率にはあまり違いがないこともわかりました。これら 3 つの直感センサーをどのように動かすかということも、マーケターに問われる課題です。
マーケティングで意識すべき直感センサー
上の表から、「フォロー」はテレビ CM に反応しやすいことがわかります。フォローの直感センサーを刺激するには、メジャー感が重要だからでしょう。それに対して、「パワーセーブ」は反応していません。これは、パワーセーブがテレビ CM によるイメージよりも、より実用的な情報に反応するためだと考えられます。また、何気なく情報接触をしている中で購買まで一気に進ませる、いわばパルス消費行動をもっとも誘導しやすいセンサーは「アドベンチャー」です。マーケティングによって、目新しいものを探している、少しだけ冒険したい、といった「アドベンチャー」の直感センサーを刺激できれば、たとえ継続購入の多い商品カテゴリーであっても、ブランドスイッチを引き起こすことが容易になると考えられます。
最終回は、この直感センサーが消費財、耐久財それぞれのカテゴリーでどのような反応となるのかを見ていきます。