マイクロモーメントでは、人々の情報接触が格段に増え、「いつでも」「どこでも」好きな時に検索し、必要な情報を入手する生活者の姿を紐解きました。企業が、確実にその瞬間を捉えてビジネスにつなげるためには、個々の瞬間に最適なメッセージを届けることが必要です。データドリブンアトリビューション (DDA) は、その個々の瞬間の重要度を考慮に入れた広告配信を可能にします。H.I.S. の事例を見ながら、そのインパクトを検証してみましょう
「旅行」検討時に発生するマイクロモーメント
生活者が、旅行をしたいと思い始めてから旅行をするまでにはさまざまなマイクロモーメントが発生します。検索や生活者調査データを元に、各モーメントにおいて見られる生活者の「意図」をカテゴリ分けすると、大きく次の 4 つに分類できました。
1. どこに行こうかと考える瞬間ー連休を前に旅行をしようと思った場合、まずはどこに行こうか、と旅行したい場所について思いを巡らすことから始めるでしょう。「ハワイ」、「グアム」、「ホノルル」等、地名検索が主になります。調査では、この瞬間には 69% のユーザーがまだ具体的にどの航空会社を使うか決めていないと答えています1。
2. 旅行の計画を立てはじめる瞬間ー具体的な計画段階に入ると、ツアー情報やフライト、ホテル情報等、さまざまな情報を集めます。「ハワイ 旅行」、「ホノルル ホテル」といったキーワードを組み合わせて、どこに泊まるのが良いのか、どうやって行くのが良いのか等、時間があるときに検索します。77% のユーザーが、旅行計画時にスマートフォンを利用して情報を検索したことがあると答えています1。
3. 予約をする瞬間ー実際にツアーや航空券、ホテルといった旅行の詳細について予約する際は、「ハワイ 航空券 格安」、「ハワイアン航空 空き」などのキーワードを用いて空き状況や価格など、具体的な情報を探すはずです。54% の旅行者がスマートフォンで予約したことがあると答えています1。
4. 旅行先で何をするか考える瞬間ー旅のアレンジは予約が済んだら終わりではありません。実際の旅行に向けて現地の情報や持ちものを調べたり、アクティビティの情報や飛行機のステータスをチェックしたりと、旅行をより楽しむために情報検索を続けるでしょう。64% の生活者は、この段階で役立つ情報を提供した企業に対して好感を持つと答えています1。
「旅行」検討時に発生する 4 つのマイクロモーメント
多くの企業は、計画段階 2. から予約をする瞬間 3. にある生活者を捉えることに主眼を置いています。しかし実際は、どこに行こうかと考え始めた瞬間から生活者の購買検討は始まっており、計画の上流段階から生活者の意図を捉えたメッセージを送ることで、自社を検討していなかった層にも自社のサービスやブランドを選択してもらう可能性が高まります。
とはいえ、企業にとって、この段階でメッセージを届けることにどの程度の意味があるのかという見極めは容易ではありません。また、そのフィードバックを次のアクションに移し、継続的にプロセスを運用していくことは、従来はほぼ不可能でした。これに対応すべく H.I.S. は、データドリブン型のアトリビューションモデルを活用し、旅行の上流の検討段階にあるユーザーにメッセージを届けることの価値を推測しながら自動入札をすることで、リアルタイムにその内容を入札に反映しました。
データドリブンアトリビューションを活用し、上流のマイクロモーメントを捉える
データドリブンアトリビューション (DDA) は、コンバージョン経路全体における各キーワードの実際の貢献度を、アカウントに蓄積されたデータを活用して算出します。これまでの静的なルールベースのアトリビューションでは、何が最適なモデルかを判断することが難しく、取れるアクションが限られていました。しかし DDAでは、機械学習によってコンバージョンパスごとの効果を学習していくため、各接点の貢献度が適切に評価できます。また、自動入札と組み合わせることで、リアルタイムな自動入札単価調整が可能です。
現在日本では、多くの広告主が自動入札を導入し、検索広告の運用を行っています。検討の初期段階にあるユーザーの意図を捉えることの重要性を理解していても、最終的なコンバージョンをラストクリックのみで評価していては、実際の運用上では検討初期のユーザーへのメッセージ(キーワード出稿)は評価されず、機会損失につながります。
生活者は最終的な購買決定までにさまざまな検索を実施するため、購買決定に至るまでの経路は複雑化しています。データドリブン型のアトリビューションモデルでは、企業ごとに、コンバージョンする経路としていない経路についてデータを蓄積して判断し、各キーワードの貢献度を推定します。
一例として、H.I.S. で旅行を予約した人の経路について考えてみましょう。
図 1 ハワイ旅行を予約した人のコンバージョン経路
ハワイ旅行を検討している人は、検討の初期段階において「ハワイ」という一般キーワードで情報を検索します。しかし、その人たちが最終的にコンバージョンしたキーワードは、「HIS」やH.I.S.のキャンペーンである「初夢フェア」等、具体的なブランド名が主となります。「ハワイ」と検索した段階では、まだどの企業のツアーを利用するか決めていない生活者がほとんどです。一方、具体的に 「HIS」 と検索している生活者は、すでに H.I.S. を認知し、ツアーを真剣に検討していると想定されます。仮にラストクリックで、検討の最終段階にある生活者を中心に広告を配信していては、すでに企業及びサービス名を認知している生活者、もしくは検討している生活者にしかメッセージを届けることができず、旅行を想起している生活者全体に検討を促すことはできません。
H.I.S. は、その課題を解決するために、データドリブン型のアトリビューションモデルを採用し、自動入札で運用を開始しました。自動入札を組み合わせることにより、時間、地域、デバイス、検索パターンのそれぞれをリアルタイムで評価し、考慮した入札を行うことができました。下記はその結果です。一般キーワードである各地名のインプレッションシェアと平均掲載順位を、DDA 導入前後の同時期で比較してみました。
図2 2015 年と2016 年の年末キャンペーン結果の比較
他の要因が全く排除されないわけではありませんが、ここで挙げた 3 つの旅行先に関して、インプレッションシェアと平均掲載順位が上がると同時に、合計のコンバージョン数が前年同時期、同配信エリア比で年率 62.4% 増加しました。これは、旅行を想起した初期の段階の生活者に対するインプレッションシェアを上げることで、実際に自社のサービスを検討する生活者の流入を増やすことができ、最終的にコンバージョンを増やすことができたことを意味します。
テクノロジーの進化に伴い、複雑に絡み合うさまざまなシグナルを膨大なデータから読み取り、そこから得られた考察をリアルタイムに次のプランニングに活かすことができる時代になっています。新しいものを取り入れるには課題も存在しますが、積極的に取り入れ、活動を刷新していくことで、マーケティングはさらに進化するのではないでしょうか。