3 月後半から、新型コロナウイルス感染が都市部で拡大している事態を受けて、それらに関する報道が増えています。また 4 月 7 日には、東京・神奈川・埼玉・千葉・大阪・兵庫・福岡の 7 都府県を対象に「緊急事態宣言」が発令され、生活や経済に対する影響への懸念がさらに高まってきています。
前回は、2 月 27 日のピーク以降の「新型コロナウイルス」検索量がどちらかというと減少傾向であるとお伝えしましたが、緊急事態宣言発令前の 3 月後半からまた上昇傾向に変わり、下図の通りこれまでとは比較にならない検索量の増加となりました。これは、場所によって違いはあるものの、全国的な傾向です。
検索動向「新型コロナウイルス」
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4 月 6 日週は、「緊急事態宣言」というキーワードそのものも急上昇ワードとなりました。「緊急事態宣言」が具体的にどのような内容なのか、どのような変化や規制があるのかなど、詳細を把握するために、「......とは」「どうなる」「なに?」という言葉と共に検索されています。そしてやはり、対象となった都府県、特に神奈川・大阪・東京では、顕著に検索量が相対的に増えていました。
また、これまで店舗の「営業時間」を確認する検索が増えていましたが、「休業」かどうかという検索も、ここにきて「営業時間」の検索と同程度に増加したのも特徴的です。
検索動向「休業」「営業時間」
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一方で、「緊急事態宣言 仕事」「仕事 補償」というキーワードが全国的に検索されたことが確認できました。「自分や自分の関係者の仕事にどう影響があり得るのか?」という疑問が全国的に広がっていたようです。「緊急事態宣言」という公的な通達が、どう影響を与えるかを把握したかったのかもしれません。
日本でも世界でも、新型コロナウイルスの影響が深刻化していく中で、国内での生活環境はどのように変わってきているか、Google トレンド などの検索動向を見ながらまとめてみました。今回は特に、3 月末から 4 月初旬にかけての、本来ならば新生活が始まる時期のデータです。通常時の同じ時期と比較をして、その影響を見ていければと考えます。なお、この内容は 2020 年 4 月 9 日までの状況やデータをもとにしています。
新生活に向けて
多くの企業で入社式が 4 月 1 日に催されますが、今年は報道にもあったように、中止や延期、もしくはオンラインでの開催が多くなりました。同様に入学式も、参加人数を制限するなどの対応が取られました。検索量そのものをこれまでと比べると微減でしたが、一方で関連して検索されるキーワードは、「中止」のような開催されないことの確認もしくはその前提での検索が多く、質的な変化がありました。せっかくの晴れ舞台がこのような形になったことに困惑した印象を受けます。
ところで新生活を始めるには、その準備も必要になります。例えば引っ越しは、2 月から 3 月が検索のピークタイム。今年もこの時期に検索量は増加しているものの、ピーク時の検索量は、2019 年と比べて相対的に 10 ポイントほど低くなっています。また、2019 年は 3 月の第 2 週と第 3 週が検索のピークでしたが、今年は 3 月の第 4 週がピークになっているのも特徴的です。新型コロナウイルスの動向を見ながら、引っ越ししようかどうか迷っていたが、どうしても 4 月に向けて引っ越さなければならなかったという、意識や行動を裏付けているのではないでしょうか。
検索動向「引っ越し」
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新生活に向けては、引っ越しだけではなく、新たな準備に向けての買い物も必要になります。しかし現状は、街に出て自由に買い物できない状況なのも事実です。そのため、新生活の必需品について、インターネット上で探す傾向にあることが確認できました。わかりやすいところでは、一人暮らしに必要な家電や家具を、まとめてお手頃な価格で購入できる「新生活セット」の検索量が増加しています。
検索動向「新生活セット」
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また、新生活に関連した具体的なお店の検索も、通販に強いお店、あるいは通販に対応しているお店の検索量も増加傾向にありました。
日本の大切な行事「お花見」は?
新生活関連の検索と同様にこの時期に目立つのが、「桜」と「お花見」に関連した検索です。「桜」はその年の桜の開花・満開状況によって多少前後しますが、3 月の第 3 週もしくは第 4 週にそのピークが訪れます。今年も例年通り、第 4 週に検索が跳ね上がったものの、その検索量は例年の半分程度でした。これは世界における ‘Cherry Blossom’ についても、同様の傾向です。
検索動向「桜」「Cherry Blossom(対象: すべての国)」
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一方で日本においては、「オンライン 飲み」の検索量が 3 月の最終週から伸びており、これは今年特有の動きと言えます。このタイミングで行政からの週末や平日夜の外出自粛に関する呼びかけがあったことはもちろん、お花見の時期とも重なったことで、自宅にいながらオンライン上で近親者や仲間内で集まり、楽しもうとしている人たちの行動を反映していると考えられます。
検索動向「オンライン 飲み」
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「さくら」の Google 検索量は半分程度にまで減少しましたが、YouTube 内検索は去年同時期と検索量が変わりませんでした。動画で桜を楽しむスタイルも一定量定着してきているようです。
外出自粛の広がりを反映した「#家にいよう。」検索
実際この時期のオンライン飲みだけに限らず、いかに自宅で時間を過ごすかを意識した検索が増えてきています。外出自粛を促すために「#家にいよう。」というキーワードも広がり始めました。さまざまな状況に置かれる人々、多様なメディアからの発信が、1 人ひとりの意識・行動に、影響を与えつつあります。
そしてそれを反映したように、「XX 家で」という検索が増加傾向です。また、「DIY」という検索も過去 2 年の同時期と比較して、今年は検索量が比較的多くなっています。
検索動向「家で」
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検索動向「DIY」
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「#家にいよう。」「家で」の検索の中でも、生活を意識したものについてもう少し深く見ると、快適・気晴らし・新たな必需品の 3 つに分かれるようです。
「快適」を志向した検索では、例えばエスプレッソマシーンの検索量増加が、その典型例になり得ます。リモートワークをしている時、コーヒーで一息つくなど、カフェのような快適な空間を自宅に求めているのかもしれませんね。興味深いところでは、自宅で座ることへの心地よさを追求した表れでしょうか、「人をダメにするソファ」の検索がここにきて急に上昇しています。
検索動向「人をダメにするソファ 」
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自宅での「気晴らし」を意識した検索に関しては、わかりやすいところで言うと、ゲームや動画コンテンツの検索が高まっています。先ほどの「座る」と重ね合わせて「ゲーミングチェア」と検索されるように、そこから派生した検索量までにも影響を与えていることが特徴的です。子供のための検索では、いわゆるアナログで遊べるものを探す傾向も見られます。例えばボードゲームやカードゲーム。また「スケボー」も注目されているようです。限られた空間で、元気な子供がいかに楽しい時間を過ごせるか、ここも新たに考えられているポイントのようです。新たなニーズとしては、自宅のベランダを活用した「ベランピング」や「ベランダキャンプ」。この後、定着していくのかどうか、動向が気になるところです。
検索動向「スケボー」
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最後に「新たな必需品」。これまでは実店舗で実物を見ながら買ったり、あるいは外出したときに買ったりしていたものやサービスを、これまでどおりに入手できなくなった現状を反映した検索と考えられます。わかりやすいところで言うと、炊飯器。自炊が長引く傾向を反映して、炊飯器に代表される生活必需品の検索量が、これまでよりも多い傾向です。ビデオ電話や、ビデオ会議に欠かせない「ブロードバンド」や休校要請に伴う「オンライン学習」といったデジタル領域の検索なども、やはり増えてきています。
この内容は公開されている Google トレンドをもとにまとめたものです。Google のビジネスインサイト & アナリティクスチームが仮説を立てながら、深掘り、検証し、検索推移から見てとれた内容を速報として執筆しました。
新型コロナウイルスに対する懸念が大きくなり、感染を抑えていく必要性が今、社会的にも強く求められています。Google が 4 月頭に発表した Mobility Report や Google トレンドの結果のように、データで現状を把握し、考察していくことで、不安や懸念に対する建設的な議論や新たなアクションへのヒントを導き出すことも可能ではないでしょうか。
私たちは、さまざまな情報が飛び交う中で、得られた情報から自分たちの考えや仮説をこのような形で確認し、整理していくことが大切であると考えています。
なおこの内容は、2020 年 4 月 9 日までの状況やデータをもとに執筆しました。今後も継続して、このような分析や動向を私たちのチームからお伝えしていきます。
Contributor:
アナリティカルリード 斎藤 圭右 / データアーキテクト 檜垣 貴友