これまで、多くの日本人にとってテレワークという言葉は、聞いたことがあっても自分ごとにはなっていなかったと思います。突然それを開始すると言われても、何をどうすればいいのかわからず、あわてて調べてみたり、報道を見たりしていたというのが、正直なところかもしれません。これは、急遽テレワーク導入を決定した企業側にも同じことが言えます。実際、4 月 7 日の 7 都府県への緊急事態宣言と同時に「テレワーク」の検索が突如ピークを迎えました。
そもそもテレワークとは、デジタルテクノロジーを活用して働き方の多様性を担保しつつ、主に人々の働く場所や時間の制約を緩和することで、より柔軟に働ける環境を目指した形態のことです。硬直化した働き方をしなやかに変化させることで、最終的には生産性と人々の幸福度を両立させることにつながるものでもあります。
ゆえに本来テレワークは、新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぐことだけに限定したものではなく、今後も継続し得る働き方の 1 つなのです。今はテレワークが到底不可能だと考えているかもしれない業種や企業、職種であっても、デジタルテクノロジーの後押しと試行錯誤によって、懸念点が徐々に解消し、将来的にはテレワークが誰にとっても選択肢の 1 つとなるかもしれません。
さらに、テレワークの推進が新型コロナウイルス対応によって始まったのは、なにも日本だけではありません。国外で事業を展開している企業にとって、長期化する移動の制限は大きな課題となり、結果として出張の代わりにテレワークが取り入れられていることも事実です。
テレワークの推進が生産性と幸福度を上げるだけでなく、企業が持続的に成長するための要件の 1 つになっていくとすると、企業としてもその規模に関わらず、今後テレワークをいかに導入・継続していくかを考える必要があります。
そこでこの記事では、複数回にわけて下記の 3 つのポイントをおさえ、2020 年 4 月 27 日週に実施した定量調査の結果(*1)をもとに、今後の「働き方」への示唆になればと考えています。
- 今、テレワークはどのように進んでいるか
- テレワークの満足点・不満点・そこからの気づきはどのようなものか
- 企業にとってのテレワークの価値は何か
第 1 回は、テレワークの現状、実態を見ていきたいと思います。
まず、新型コロナウイルスの拡大に伴い働き方に変化があったという関東・関西圏の有職者 (週 5 日以上、1 日あたり平均 7 時間以上働いている人)は 61% でした。
新型コロナウイルス感染症に伴う働き方の変化
インテージ社自主企画調査より推計した有職者母集団に合わせ、エリアと性年代でウェイトバック集計
この「変化あり」には、毎日の勤務場所は変わらないが、通勤時間帯や勤務時間に変更があった人も含まれます。「テレワーク」という働き方を取り入れた有職者は 47% で、「毎日テレワーク」に移行したのは全体の 17% でした。週に何度かはテレワークするとの回答の中では、通常の仕事場よりテレワークで働くほうが多い、もしくは同じくらいとなったのが 22%。まだ仕事場での勤務の方が多い人は、8% となっています。
なお、これは、医療・介護関係従事者や、公務員、販売、建築に携わる仕事など、そもそもテレワークを取り入れづらい、いわゆるエッセンシャルワーカーと呼ばれる人たちも含めた数字になります。テレワークの導入率をオフィスワーカー(固定のオフィスを拠点にしてデスクワークや外出をする内勤職や営業職など)に絞ると、62% でした。
では、テレワークがどのように浸透しているのかを見ていきましょう。テレワークのインサイト抽出を大きな目的としているので、ここからは、テレワークの導入が進んでいるオフィスワーカーを分母にして分析していきます。
最初に、「どこから」という視点で見てみましょう(*2)。地域別で見ると、テレワーク化は全体で一様に進んでいるわけではなく、濃淡があることがわかります。勤務地が東京都にある人のテレワーク率は 75%、大阪府では 58% と、テレワークが進む傾向にある一方、東京都以外の関東 6 県では 51%、大阪府以外の 1 府 4 県では 42% と、まだ半数が仕事場をオフィスにしたままとなっています。
エリア別 テレワーク導入率
次に、テレワークを「いつから」始めたかという点に目を向けてみましょう。全体としては 4 月 7 日の緊急事態宣言が契機となっていることが確認できます。その一方で、約 40% がすでに緊急事態宣言前にテレワークを導入していたという点も見逃せない事実です。
東京都内の企業に勤める人がテレワークへ移行した時期は、4 月 7 日より前が 54% と、他の地域と比較して高いことも特徴的です。
テレワークを取り入れたタイミング
テレワークを取り入れた人のうち、7 割強が会社や上司からの指示による強制的なもので、3 割弱は自主的な判断(会社や上司からの強制的ではない指示も含める)でした。ただ、緊急事態宣言前にテレワークを取り入れていた人は、自主的な判断が 34% と高くなっており、比較的テレワークの環境や周囲の理解が整っていたためと考えられます。
テレワークを取り入れた背景
それでは、「どのような人から」テレワーク化が進んでいるかに着目します。テレワークをしている人が多いのは、部・課長クラス、30 代、一定規模の従業員数をもつ企業に勤める人、という傾向が見てとれます。職種では、「IT・情報システム職」「設計・開発・研究職」「営業・マーケティング職」に従事する人がよりテレワークしている傾向にあるようです。
一般社員や 20 代では平均的で、経営層・役員クラス や 50 代、「公務(公共サービス)」「事務職」「販売・サービス職」では低めとなっています。
オフィスで勤務を続けなくてはならない理由として、全体では「現場対応や顧客・取引先対応など、出社しないとできない業務があるから」「個人情報・機密情報など、オフィスに出勤しないと取り扱えない情報があるから」「会社からオフィス勤務を指示されているから」の 3 つが上位となっています。
オフィス勤務の理由
テレワーク導入率が相対的に低かった事務職では、「テレワーク制度が整備されていないから」「請求書や押印手続き、印刷など、紙データの処理があるから」が高くなっています。また、会社からオフィス勤務を指示されていないのに、オフィスで働いている理由については、「会議に参加しなければならないから」というよりも、「現場対応や顧客・取引先対応」「個人情報・機密情報の取り扱い」「請求書や押印手続き、印刷など、紙データの処理」などといった、社内外の業務プロセスの一部や慣習がテレワーク環境に即しておらず、結果としてオフィス勤務になっていることが考えられます。
最後に、テレワークを取り入れているオフィスワーカーは、新型コロナウイルス拡大の懸念が収まった後も、テレワークを続けたいと考えているのでしょうか。調査によると、続けたいと回答した人は約半数、続けたくないと回答した人を大きく上回る結果となりました。
新型コロナウイルス 感染拡大の懸念が収まった後のテレワーク継続意向
なお、テレワークを継続したいという意向は、特に課長クラスや一般社員で高くなっています。また緊急事態宣言以前からテレワークを取り入れている人の間で高く、習熟度、いわゆる「慣れ」によっても継続意向に影響が出ます。
新型コロナウイルスの感染拡大という予想もしていなかった出来事によって、テレワークへの意識の高まりと取り組みが進みました。と同時に、その推進には、制度や慣習に課題があると認識されていることも読み取れます。それにもかかわらず、継続意向が高いことは興味深い結果でもあり、ここに生活者インサイトが眠っているはずです。
連載 2 回目では、テレワークを取り入れている人たちの働き方の変化や、テレワークに対する満足点、不満点などについて、より深く見ていきます。
Contributor:
アナリティカル コンサルタント 中島 美月