ボンボンTV は、2015 年 8 月に配信をスタートしたやってみた系の動画を中心とする YouTube チャンネルです。面白くてためになるコンテンツを提供すべく、講談社と大手マルチチャネルネットワーク (MCN) が共同で運営をしています。現在ではチャンネル登録者が 82 万人を突破、総視聴回数も 9 億回を超えるチャンネルへと成長しました。人気コンテンツを保有する企業の YouTube における取り組みをお伝えする第 1 回目の今回は、ボンボンTV の立上げからここまで育ててきた安永編集長のお話をお届けします。
━ ボンボンTV をはじめたきっかけはなんですか
安永氏:
「昔、好きだったコミック雑誌を復活させたい」と考えたことがきっかけです。2007 年に「コミックボンボン」が休刊*。それ以後、若年層、特に男の子向けの媒体が講談社に存在しませんでした。
雑誌が売れにくくなっている時代、若年層に我々のコンテンツに触れてもらうためには雑誌以外のどんなメディアを作れば良いのだろう?とあれこれ熟考した末、「今、彼らが最も触れているメディアでコンテンツを展開するしかないのでは」と、逆から考えてみたのが出発点です。
このような状況の中、親子、特に小学生が保護者と共に楽しめ、同時に面白くてためになるコンテンツを提供するメディアとして、ボンボンTV を大手 MCN と協働で運営するに至りました。
━ ボンボンTV を立ち上げてから軌道に乗せるまで、どういうチャレンジがありましたか
安永氏:
講談社は出版社であり、映像会社ではありません。今まで紙ベースのコンテンツを提供してきた会社なので、動画をどう撮ればよいのか、どのような内容の動画がウケるのか、そのノウハウは一切ありませんでした。そこで人気 YouTube クリエイターをマネジメントされている大手 MCN さんに相談し、協働することでご快諾いただきました。
ターゲット層に大きな影響力を持っている YouTuber と呼ばれる YouTube クリエイターの存在が重要だということは分かっていました。だからボンボンTV でアップされた最初の動画は、トップクリエイターである HIKAKIN さんとはじめしゃちょーさんが、「ボンボンTV 、始まるよ」と告知する動画でした。今でも、その動画を見ると不安と期待の入り混じった当時のことを思い出してドキドキしてしまいます。
最初は、ごちゃごちゃしたラインナップながら毎日必ず更新していました。ローンチして半年間は暗中模索のまま、様々な仮説を基にトライ&エラーを繰り返しましたね。当時は良いコメントばかりではなく、管理画面を見るのも苦痛でした。視聴者は良くも悪くもストレートなので、面白くないものに対しては容赦がありません。
ただ連日アナリティクスの分析をしていくと、徐々に視聴者の層によって見られるコンテンツが違うことがわかってきました。
例えば、ボンボンTV の視聴者は「乗り物が好き」との仮説に基づいて用意したクルマの映像は、評価が高くありませんでした。ターゲットを意識しすぎるあまり、幼稚な構成になりすぎたのかもしれません。恐らくボンボンTV の視聴者は背伸びをしたい年頃なのだと思います。結果として、乗り物の映像はボンボンTV で取り扱うことをやめ、「Best MOTORing(ベストモータリング)」という自動車専門チャンネルへ集約させました。
━ チャンネルを運営する上で大事にしたことはなんですか
安永氏:
視聴者が興味を持っていること、それは、彼らに近い所にいる人が一番よく知っています。YouTube クリエイター は、毎日スマホ越しにその視聴者としっかり向き合っていて、彼らが何を面白がっているのか、どういう気持で動画を観ているのか、誰よりも理解しています。一方、会議室で大人が上から目線で議論したコンテンツでは、彼らにそっぽを向かれてしまいます。
ボンボンTV ではアイデアや撮影、編集もできる限り YouTube クリエイターさんに任せ、自分たちがオモシロイと思ったものを投稿してもらうというスタイルで運営してきました。
それが、今、ボンボンTV で人気を博している、よっち、えっちゃん、りっちゃんという若い YouTuber です。彼らの自由な発想とたゆまぬ努力、そして動画への情熱が、今のチャンネルを支えてくれています。
━ 任せるといろいろな動画が出る可能性がありますが、その中で講談社さん、もしくは『ボンボン』がもつブランドとの兼ね合いはどう考えたのでしょうか
安永氏:
ブランドを守るため、どのようなコンテンツを作るべきか、ガイドラインやルールを厳格に設定するという選択肢もあるかもしれません。 でもボンボンTV ではフィルターをかけるのは最後。ルールや禁止事項を頭ごなしに提示してしまうと、何も生まれない。とにかく「面白い!作りたい!」と思う気持ちを何より大事にしてもらい、動画に取り組んでもらいました。 そして、最後に運営側が一定のフィルターをかける方が、ブランドを守りながらも面白いコンテンツ展開ができると思っています。本作りの最後の過程で「校了」をしっかり機能させる、のと似ているかもしれません。
━ 軌道に乗ったなと感じ始めたのはいつ頃ですか
安永氏:
まだまだ道半ばで、軌道に乗った感は皆無です。ただ最初に光が見えた瞬間があるとすれば昨年 3 月、「グミを作る」動画で初めて 100 万回再生が出たときでした。書籍でも 100 万部売れるというのは、すごいこと。ミリオンというのは、どんな業界にいても 1 つのマイルストーンになるのではないでしょうか
それまでは、本当にこの方向に進んでいて良いのか自信がないところもあり、逡巡を繰り返していました。しかし以後は、クリエイターに任せるスタイルで行けるところまで行ければいいのではないか、と自信をもらった瞬間でもあります。その後、徐々にですが視聴回数も伸びてきました。 その次のマイルストーンは、スポンサー企業とのタイアップが決まった時ですね。(笑)
━ もう 1 つキッズボンボンというチャンネルを運営されているかと思います。ボンボンTV とはどう住み分けているのでしょうか
安永氏:
キッズボンボンのコンセプトは「子供が見たい、子供に見せたい」。つまり、子供が楽しめるだけでなく、親も安心して子供に見せられるメディアを目指しています。YouTube Kids の提供開始(※2017 年 5 月 31 日 日本で提供開始)に合わせて準備を進め、キッズボンボンの動画も毎週金曜日に更新するように切り替えました。絵本の読み聞かせをはじめ、童謡、昔話、手遊び、時計の読み方や文字の書き方など、見て、聴いて、楽しみながら学べる動画をたくさん公開しています。
講談社の社是は「おもしろくて、ためになる」です。ボンボンTV も キッズボンボンも、この社是に則ったコンテンツを揃えていますが、ボンボンTV の方は今現在流行しているネタ、最先端な話題をどんどんアップしていくことが強みだと思っています。毎週毎月、新しいコンテンツに更新される「雑誌」に近いかもしれません。他方でキッズボンボンは、「絵本」のような感覚です。
絵本や児童書におけるセールスの中核は、ロングセラーです。キッズボンボンの絵本読み聞かせは、ストーリーの最後の一行まで動画にしてました。つまり、作品プロモーションとしての動画ではなく、YouTube で完結する独立した動画コンテンツとして成立させているのです。もし、ストーリーを全て知っていても、コンテンツそのものが良ければ何度も手元において読みたくなるものです。名作ってそういうものだと考えていますし、その良い例がディズニーなのではないでしょうか。子供たちが動画を通じて絵本の存在を知ってもらえれば、きっと本にも興味を持ってくれる。「まずは動画、そこから本へ」と、そう信じています。ちょっと前まで、その役割は TV アニメにしかできなかったんですが。
最近では自治体や幼稚園から「キッズボンボンの動画を使いたい」という問い合わせも増えてきましたので、ますます「おもしろくて、ためになる」動画を上げていこうと気を引き締めています。