生活者のメディア接触時間におけるデジタル比率は年々拡大しています。ある調査によると、既にデジタルメディア(*1)がメディア接触時間全体に占めるシェアは、50.4% と半分を超えるまでに伸びました。
一方で、日本のアパレル産業の EC 化率は 11% と、伸びてはいますが、未だその売上の大半は実店舗で発生しています(*2)。背景には洋服は実際に手に取って確かめてから購入したい生活者心理もあるでしょう。
そのような環境において、実店舗を持つアパレル企業にとっては、いかに生活者が見ているオンライン媒体でのプロモーションから、実店舗に誘導して売上につなげるかというのは大きな課題であり、この点においてモバイルアプリの活用が重要な役割を果たすようになってきています。また、それに伴うマーケティング効果測定にも工夫が求められています。
今回は、そうした課題にユニクロ事業を運営する株式会社ファーストリテイリング(以下ファーストリテイリング)がどの様に取組み、モバイルアプリのプロモーションを通じて実店舗での売上増加を可能にしたのかをご紹介します。
ファーストリテイリングは Google とも様々な分野で協力し、デジタルを活用した全社規模の改革を目指しています。
同社にとってユニクロのモバイルアプリは重要な顧客接点で、お買い物アシスタントの「UNIQLO IQ」など、これまでに様々な先進的な取り組みを行っています。
課題
ユニクロアプリは、すでに大規模なインストール数を持つモバイルアプリでありましたが、これは主に店舗内で発生する自然流入のダウンロードや SNS 上でのコミュニティ会員に向けてのモバイルアプリの宣伝によって達成されていました。
しかし、実際にこれ以外のチャンネルにおいて有料のモバイルアプリ インストール広告を行っても、インストール後の購買転換率(モバイルアプリをインストールしたお客様が実際に店舗でユニクロ商品を購入する割合)が大きく下がってしまい、効率よく店舗購入を拡大する方法を模索していました。
過去にアプリ キャンペーンを実施した際にも、インストール後の店舗内購買への転換率は、自然流入や SNS に及びませんでした。
施策概要
今回ファーストリテイリングではユニクロアプリのさらなるマーケティングの拡大において、実店舗販売にしっかりと寄与することができる良質なインストールのさらなる獲得を実現するため、下記を行いました。
1) 自社で持っている実店舗での購買データと広告配信データの統合
2) 1) に基づきアプリ キャンペーンでアプリ内ユーザー行動の促進に最適化して広告配信
3) 他媒体との同条件での比較
1) では、ファーストリテイリングにおいて実店舗の購買データと広告配信データを統合することで、実際にユーザーの店舗内での購買行動を広告配信の効果として測定することを可能にし、その情報をさらなる効率的な広告配信に役立てるための基盤を構築しました。
2) については、ユニクロの実店舗で買物をしてくれる可能性の高い生活者に対して、機械学習によって Google の持つ様々なオンライン媒体(Google 検索、Google Play、YouTube、Google ディスプレイ ネットワーク)を通じて日常生活の様々な瞬間(何かを知りたいなど)を捉えたプロモーション(*3 )を行いました。こうしてモバイルアプリ インストール、店舗への送客、店舗での購買、またそれらの成果に基づく広告配信の改善までの一連の自動化された流れを作りました。
3) については、下図の通り、広告配信データと店舗での販売実績の購買データを App Attribution Partner の広告効果計測ツール(*4 )を活用しました。こうして実際に広告接触したユーザーが店舗で購入したかを効果測定し、他の経路の成果と比較することに成功しました。
図:ファーストリテイリングが実施した効果測定の概要
新たな顧客流入経路からの店頭売上の拡大を確認
今回の取り組みにおいて、オンライン広告(アプリ キャンペーン)に接触、ユニクロアプリをインストールした後、7 日以内に実店舗で購入した顧客の割合(*5)は自然流入として比較した際に、ほぼ同水準を記録しました。
これは、SNS のコミュニティ会員に対する訴求結果とも同水準となり、従来のインストールのみを最大化するキャンペーンと比較しても、3 倍 以上の効果改善を得ております。また、30 日以内の購入者一人当たりの購入金額も SNS とでほぼ同水準を記録しました。
図:インストールした後、7 日以内に実店舗で購入した顧客の割合
(自然流入を100%として相対化)
これらの結果から、既にユニクロブランドのアカウントにアクセスし、ブランドに好意的と考えられる SNS 経由のインストールと同等の良質な流入経路を今回の施策で新たに獲得できたと同社では考えています。
実際に、各チャンネルのインストールユーザーの属性を比較すると、今回の施策では従来と異なる性年齢層のユーザーが多く含まれることが確認されています。
図:実店舗売上拡大のための新たな顧客流入経路
今回の成果を受けて、同社では引き続き今回のように、オンラインの活用で実店舗の売上増につなげていく施策を加速したいと考えています。また、社内の組織を超えてユニクロ全体の売上増加に向けてオンライン、オフラインをまたがった施策に積極に取り組んでいきたいと考えています。